肌育コラム

COLUMN
2019.01.28

【意外と知らない?】なぜ化粧品には防腐剤が必要なのか?

【意外と知らない?】なぜ化粧品には防腐剤が必要なのか?

化粧品は未開封で3年以上品質保持をしなくてはいけません(そうでないものは品質保持期限の表示が必要)。そのためには、いわゆる「安定剤」または「保存料」と呼ばれる成分が必須となります。

「安定剤(保存料)」には、トコフェロールなど化粧品の酸化を防止する「酸化防止剤」、クエン酸、クエン酸Naなど商品のpHの変化を抑えて安定させたり、弱酸性に調整したりする「pH調整剤」、そして商品の菌汚染や菌による劣化を抑える「防腐剤」などがあります。

ここからは、「安定剤(保存料)」の中でも特に敬遠されがちな「防腐剤」について説明していきたいと思います。

そもそも化粧品にはなぜ「防腐剤」が必要なのでしょうか

化粧品には様々な成分が含有されており、肌に良い成分は時に微生物によっても大好物な成分となることが多くあります。また、クリームなど直接容器に手を入れて使ったり、リップ製品などポイントメイクアイテムのように直接肌や唇につける形態があり、絶えず菌が混入するリスクを伴うことが多くあります。

その一方で先ほど述べたように化粧品は食品と違って3年以上品質を保持することが法律で定められていますので、皆さんが安心して肌に良い化粧品を使い続けるために「防腐剤」の存在は欠かせないのです。

実際に、過去にアメリカで防腐が不十分であったアイライナーに緑膿菌が繁殖し、それを使用した人が失明するという痛ましい事件がありました。そのような事件を繰り返さないためにも、化粧品への防腐剤の配合は避けて通れないのです。

防腐剤って菌を殺すの?

「防腐剤」と聞くと菌を殺すような強い成分が連想され、その分肌への負担も大きくなるのではという不安があるかもしれません。しかし、 「防腐剤」は「菌を殺さずとも、発育と増殖を抑制する」、「特定の菌だけでなく様々な菌に効果がある」「効果が持続する」ものです。

つまり殺菌というほど効果は高くありませんが、化粧品を使い終わるまでずっと、様々な菌から守ってくれる頼もしい存在なのです。

防腐剤の安全性について

防腐剤は菌の細胞膜に作用して効果を発揮するものがほとんどであり、細胞の構造が大きく違うとはいえ稀に肌によくない作用を及ぼす可能性はゼロではありません。

そのため、防腐剤については、紫外線吸収剤、タール色素と同様に化粧品に使用してよい防腐剤と配合上限が「ポジティブリスト」というものによって厳格に決められています。

このリストの中にあるもので、配合量を守っていれば一般的には安全性に問題ないことが国として認められていますし、特に欧米人より肌が敏感な人が多い日本ではこの上限値よりもかなり少ない量の防腐剤しか配合されていないのが実情です。

防腐剤は大きく分けて2つ

化粧品に使用される防腐を目的とした成分は「ポジティブリストに載っている成分」と「ポジティブリストに載っていない成分」の2つに分かれます。

「え?ちょっと待って。さっき防腐剤はポジティブリストに載っているものしか使えないって言ったのにどうして?」って思いますよね。そう!実はここに防腐剤フリーのカラクリが…。

「ポジティブリストに載っていない成分」とは、化粧品への配合目的として防腐効果を期待するということもあるのですが、他に保湿や整肌作用などの効果があるもので、あくまでそれらが配合する目的とすることで、防腐剤の括りにいれていないという場合があります。

ですので、ほんの一部の商品を除き、防腐剤フリー化粧品とは「ポジティブリストに載っている防腐剤が含まれない」のであって「防腐効果があるものが入っていない」わけではないのです。そのため「防腐剤フリー」などと表示する場合には何が含まれていないか具体的に表示する必要があります。

代表的な防腐剤について

① ポジティブリスト収載防腐剤

・パラベン類(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンなど)

少量で様々な菌に効果があり、安定性も高く、色、においもほとんどない理想的な防腐剤。
化粧品に使用される原料は合成品ですが、天然物中にも広く存在し、ニンジン・トマトなどにも含まれていることがわかっています。

また、実はあまり知られていませんが、国内や海外で食品添加物として認められています。

最も代表的な防腐剤であり、誤解され、嫌厭されているパラベン。

その背景に、旧表示指定成分であること、内分泌かく乱物質「環境ホルモン」の懸念があること、パラベンと紫外線が作用してシミやシワなどの皮膚老化を引き起こす恐れがあるという研究報告があったことなどがあげられます。

旧表示指定成分とは、1980年に、「消費者が医師からの情報をもとにアレルギー等の皮膚障害を起こす恐れのある製品の使用を自ら避けることができること」を目的として指定された成分で102成分+香料からなっています。

しかし、1980年以降も新しい成分はどんどん開発されているというのに、旧表示指定成分リストの見直しはされていません。つまりパラベンのように旧表示指定成分だけが皮膚障害を起こす恐れがあるわけではありませんので「旧表示指定成分不使用=敏感肌でも大丈夫」とは言い切れないので注意が必要です。

次に「環境ホルモン」問題ですが、現時点ではその作用は不明なところが多く、判断することが難しい状況です。「環境ホルモン」というと怖いイメージがありますが、「大豆イソフラボン」も「環境ホルモン」に類するものだったり、その他の防腐剤も似た構造のものもあるので、パラベンだけを取り立てて怖がる必要はないのではと感じます。

但し、環境の規制に厳しいEUではパラベンの中でもイソブチルパラベンは使用禁止に、プロピルパラベン、ブチルパラベンは3歳以下の子どものおしりふきなどの商品には使用禁止となっており、パラベンの中でも種類によって扱いを変えています(汎用されるメチルパラベン、エチルパラベンは従来通り配合可能)。今後、これが世界的に広がっていくのかも見守る必要がありそうです。

最後に2005年に報告されたパラベンと紫外線が作用してシミやシワなどの皮膚老化を引き起こす恐れがあるという発表についてですが、これはパラベンを製造しているメーカーである上野製薬(株)のニュースリリース「https://cosmetic-ingredients.org/ref/2005_methylparaben.pdf」にある通り、非現実的な試験方法で行われていると思われるなど、妥当性に疑問が生じているため、現在ではあまり話題にされることはなくなっています。

とはいえ、当時は大手新聞などで報道されたこともあり、パラベンが受けたマイナスイメージがなくなっているわけではなさそうです。

パラベンに限らず「○○が悪い」などといった論調の文章は人の注意を引き付けるネタになるため、多用されがちです。しかし、長年効果や安全性を研究され、市場に良いものをうみだしたいと開発された成分がそうそう、肌や健康に被害を与えるような働きをするとは考えにくいので、批判的な記事に踊らされないようにし、少しでも不安に感じた場合は直接メーカーに問い合わせて、その返答・対応含めて自分自身で判断していくべきだと思います。

・フェノキシエタノール

パラベンの次に多く使われる防腐剤。パラベンに比べるとやや防腐効果が低く、より多くの配合量が必要となる傾向に。

最近、フェノキシエタノールフリーを謳い文句とする化粧品も増えてきました。しかしながら、フェノキシエタノールが悪いという明確な論文や報告もなく、○○フリーをより差別化するためのひとつの戦略となっているようです。

・安息香酸、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、サリチル酸

酸型防腐剤と呼ばれ、オーガニック認証(COSMOS)においても使用できる防腐剤にリストアップされており、オーガニック化粧品に多く使われます。

製品のpHによって防腐力が変化する特性があり、例えばソルビン酸の場合、pH4.5での防腐力を100とするとpH5.0では58まで減少してしまうため、製品の安定性やバラつきに注意する必要があるなど、配合が難しい成分です。

② 他の配合目的を有する防腐成分

防腐剤フリーの化粧品に広く使われる防腐効果のある保湿成分。防腐剤フリーの流れによって配合される例が増えてきています。
ペンチレングリコールと1,2-ヘキサンジオールは数%、カプリリルグリコール、エチルヘキシルグリセリンは1%以下で効果を発揮します

・ペンチレングリコール
・1,2-ヘキサンジオール
・カプリリルグリコール
・エチルヘキシルグリセリン

全成分表示に防腐剤がいっぱい…これってどうなの?

全成分表示を解析するサイトが散見されますが、その中には防腐剤の種類が多いだけで、ネガティブな評価をつけるものがあります。でもこの考えは大きな間違いであるケースがほとんど。

なぜなら 防腐剤は複数の種類を組み合わせて使った方が、トータルの防腐剤量を減らすことができるのです。防腐剤にも効きやすい菌と効きにくい菌がいて、それを1種類の防腐剤だけで効果を出そうとしたら、おのずと効きにくい菌でも効果が出るような量をより多く入れなければならなくなり、肌への負担が大きくなることが多いからなのです。

ですので、「防腐剤」の種類が多いことに対していたずらに恐怖感をもつ必要はありません。

但し、これは他の成分にも言えることですが、全ての人で肌トラブルが起きないわけではないので、もし自分があわない化粧品があったら防腐剤に着目して商品を選んでみるのもよいかもしれません。

私の経験ですが、敏感肌の人の中でも、パラベンが合わない人、フェノキシエタノールが合わない人、カプリリルグリコールが合わない人、それぞれに遭遇したことがあります。敏感肌だからと言ってひとくくりに、特定の防腐効果を有するものだけがあわないということではないのです。

もし、「○○無添加」「○○不使用」といった敏感肌にやさしそうな化粧品を使っているのに肌に合わないと悩んでいる方がいらっしゃいましたら、違う防腐剤が入ったものを試してみるのも良いかもしれませんね。

<この記事の監修>
(株)ブランノワール 代表取締役 白野 実

国内化粧品メーカーにて23年間スキンケア化粧品、薬用化粧品の開発に従事したのち、化粧品および医薬部外品の品質保証業務に3年間従事。2017年2月 化粧品開発コンサルティング会社「株式会社ブランノワール」設立。開発コンサルティングの他、化粧品メーカーでの技術指導などを行っている。