肌育コラム

COLUMN
2019.02.28NEW!

知っておきたい!香料と精油の違いとは?

知っておきたい!香料と精油の違いとは?

化粧品にとって重要な要素である「香り」。その一方で「香料」の皮膚刺激や香害などが懸念され、様々な情報が飛び交っています。今回はこの「香り」を演出する主役である「香料」「精油」についてお話ししたいと思います。

<香料とは?>

<香料とは?>

「香料」は大きく「天然香料」と「合成香料」に分けられます。

まず「天然香料」は植物から水蒸気蒸留などによって得られる「精油」や有機溶媒を利用して得られるアブソリュートなどの「植物性香料」、ジャコウジカなどの動物より得られる「動物性香料」に分けられます。

「合成香料」は天然香料から単一の成分を抽出した「単離香料」や単離香料から化学合成される「半合成香料」、石油などから合成される「合成香料」に分けられます。

例えば、清涼感を有する合成香料「l-メントール」はハッカ油から得る「単離香料」のもの、テレビン油から得られるβ-ピネンを出発成分として得られる「半合成香料」、イソブテン、ホルムアルデヒドといった石油由来の原料を出発成分として得られる「合成香料」の3種類があります。

「合成香料」と聞くと「天然香料の方が安心安全」と思われがちですが、化学的には天然でも合成でもまったく同じ成分です。「天然香料」は非常に高価で供給が不安定であったり、野生動物保護の観点から入手が困難となりやすく、よりよい香りを広く利用してもらいたいとの考えから、できるだけ安価に生産できるように開発されたものが「合成香料」です。他の化粧品成分にもいえることですが、香料に関しても由来は特に気にする必要はないと言えます。

<香料、精油の皮膚・体への影響>

<香料、精油の皮膚・体への影響>

敏感肌向けの化粧品の多くは無香料のものが多いことから、なんとなく消費者の方々も察しているのではないかと思うのですが、もともと「香料」に分類される成分は低分子成分であることから、皮膚に吸収されすく、皮膚トラブルを起こすケースがあり、アレルギーを引き起こす可能性がある成分として旧表示指定成分に分類されています(医薬部外品では現在も表示義務があります)。

また、様々なアロマテラピーや精油に関する専門書にも「精油は数十から数百種もの化学物質が集まってできた有機化合物であり、低分子の揮発成分が濃縮されたものであるため、100%安全という訳ではない」などと表現をされているため、肌が特に敏感な方や敏感になっている時期には注意が必要であると思われます。

※ヨーロッパでは柑橘類の精油などに含まれる「リモネン」やラベンダーの精油などに含まれる「リナロール」など26種類の香料成分が一定の濃度以上(洗い流さないものは0.001%以上)含まれる場合に「アレルゲン物質」として表示の義務が発生する制度があります。

こんなにネガティブなことを言っていると、化粧品に「香料」を入れることがタブーと考えてしまうかもしれませんが、香料業界では皮膚トラブルなどを起こさずに、安全に香料を使用できるための研究を行う国際的な組織「香粧品香料原料安全性研究所(RIFM)」を設立し、化粧品香料それぞれの成分について広範な項目について安全性評価をしています。

さらに、世界の香料業界の組織である国際香粧品香料協会(IFRA)は「香粧品香料原料安全性研究所(RIFM)」の評価結果に基づいて、香料を安全に使用するためのスタンダード(使ってはいけない香料成分や化粧品の用途によって使える量の上限)を決めたりしています。また光毒性や光アレルギー性のある天然香料も、香料中の原因物質が解明され、それを取り除いた安全な香料も開発されています。

このように時代とともに研究や自主基準が進んでおり、以前よりも安心して使用できるようになっています。

※食べるアロマについて

「飲めるアロマ」など精油を積極的に経口摂取させる商品が定期的に注目を浴びますが、精油や香料成分に限らず、「効果がある・ない」「毒性がある・ない」を考える場合には、「成分の性質」だけでなく「摂取量」という観点から判断することが必要です。



「○○が悪い」という話は「摂取量」という観点が欠如していることがほとんどであり、全く的外れなことが多くなっています。
「精油を口にする」こともまた同じ観点で考える必要があり、単純に精油全てを口に入れるべき、入れるべきではないという結論を出すことはあまり意味がないことであると思われます。



ただし一般論として考えると、精油成分でも確かに経口で効果が期待できるものもあると考えられますが(ドイツのメディカルハーブ等)、副作用のリスクも生じてきます。その点を考慮せずに「天然成分だから副作用がなくて安心安全なはず!」と考えてしまうのはとても危険な事です。また、「病気が治る」といった法律を守らない表現方法で販売されている製品には注意が必要だと思います。

<「香害」と呼ばれる社会問題>

<「香害」と呼ばれる社会問題>

安全性が高まり「香料」が様々な製品に配合され、香りを楽しむ機会が増えているのですが、最近「香害」という言葉を耳にするようになりました。

柔軟剤や洗剤の「過剰な」香り・香料成分によって、めまいや吐き気、思考力の低下などの化学物質過敏症の症状を訴える人が増えていることから生まれた言葉です。特に柔軟剤の香りを強くすることがトレンドであった時期に社会問題になりました。

香料成分は先ほども話したように低分子の揮発性成分からなっているため、当然、周囲の人たちも影響します。過敏症の症状が出ずとも、不快に思う人もいるかもしれません。このような問題は「過剰」であることが一番の問題であり「香り・香料」そのものでなく「香りの使い方」に問題があると言えるでしょう。

「香害」のような過激な表現によって、商品の魅力の一部であったり、使用する際の楽しみである「香り」が失われてしまうのはさみしいことだと思いますので、香料の適正量がさらにクリアになるといいですね。

<香りによる効果>

<香りによる効果>

肌トラブルの懸念や化学物質過敏症などの話が続きましたが、そもそも化粧品に「香り」がついているのはなぜなのでしょうか。

五感の中でも嗅覚はより原始的な感覚であり、より本能に訴えることが可能と言われています。

具体的にアロマテラピーによる精油の5つの働きを挙げてみると

(1)生理作用:精油成分が鼻から大脳辺縁系に伝わり自律神経系、内分泌系、免疫系のそれぞれに情報伝達し、心身のバランスを調整する
(2)心理効果:心療芳香療法、芳香心理学
(3)抗菌作用:フィトンチッド(揮発性の抗菌物質)
(4)生体リズム調節作用:光と同様に香りにも生体リズムを調節する働きがあることがわかっている。
(5)薬理作用:消炎、鎮痛、鎮痙など。数十から数百種もの化学物質が互いに調整しあうことで作用を発揮するため、効果がマイルドなのが特徴。

「香り」がヒトに及ぼす影響は非常に大きいものです。

私自身も全く同じ構成成分で作られた化粧品に、香料入り、なしでモニター評価した結果、嗜好性はもちろんのこと、しっとり感やベタつき感の評価まで違う結果になったという経験があり、香りは化粧品の効果や魅力をより高め、より豊かな気持ちで心地よく使うために必要な要素だと思っています。

「香料は刺激になる」とか、「合成香料は体に悪い」という先入観を捨てて、もっと純粋に香りを楽しんでよいのではないでしょうか?そして使用する際にはTPOに合わせた使い方、「エチケット」「モラル」を意識して、彩り豊かな毎日を過ごしてみてはいかがでしょうか?

<この記事の監修>
(株)ブランノワール 代表取締役 白野 実

国内化粧品メーカーにて23年間スキンケア化粧品、薬用化粧品の開発に従事したのち、化粧品および医薬部外品の品質保証業務に3年間従事。2017年2月 化粧品開発コンサルティング会社「株式会社ブランノワール」設立。開発コンサルティングの他、化粧品メーカーでの技術指導などを行っている。