肌育コラム

COLUMN
2020.6.4

息をコントロールするプロ声楽家直伝!
深い呼吸をすることで体と心を整えるエクササイズ

息をコントロールするプロ声楽家直伝!深い呼吸をすることで体と心を整えるエクササイズ

自粛期間の中、家の中だけで過ごす生活にストレスを感じたり、必要があって外出する際も緊張する場面だらけで、疲れている方が多いと思います。文字通り「息がつまる」日々をお過ごしではないですか?

そんな日常でついつい忘れがちな「息」について考えてみたいと思います。 心と体は呼吸と深い関係にあります。まずは[詰まっている息を流し、また、深い呼吸をすることで体と心を整える]呼吸エクササイズを体験してみてください。

息は「自分の心」と書く

呼吸エクササイズの紹介をする前に、なぜ「息」を見直すことがメンタルへ影響するのか説明してみたいと思います。

声楽家である僕が18歳で歌の勉強を始めた時、まずテノール歌手の父:古澤泉に弟子入りをし、歌のレッスンを受けました。そして最初に伝授されたのが「息」についての考え方です。

「歌に必要な息は3種類ある。一つめは生きる為、酸素を取り入れる為の息。次は声を出す為に必要な燃料としての息。だけど一番大切なのはもう一つ。それは【感情】の息だ。『息』という漢字は『自』分の『心』と書くだろう…」

これが最初のレッスンでした。歌を歌うどころか、息の吸い方だけで初レッスンは終わってしまいました。

感情や心がこもっていなければ、どんなに良い声で歌っても人の心には届きません。そういった感情表現は頭で考えるのではなく、息や呼吸の仕方で表現できるようになりなさい、ということを父は最初に教えてくれました。今でもこの言葉は『歌の極意』だと僕は考えています。

感情は息に表れます。泣く時、笑う時、怒る時…息の種類(呼吸の仕方)が変わります。 逆に、息を整えることで自分の心を整えることもできます。
怒りたくなった時は一呼吸おくと心が鎮まります。緊張した時は深呼吸、と習いましたね。心が鬱々としていて動かない時は、息も止まって、喉に詰まっているような感じがします。漢方では「気淡」と呼んだりします。

よく「空気を読む」なんて言葉が使われますが、場の雰囲気を知るには、その場にいる人たちの心や感情を読むことが大切なのだと思います。僕たちは知らず知らずのうちに他者の心を読み、その場の空気を読んでいます。

例えば、相手の表情が見えなくても怒っていたり、泣きそうになっているのがわかったりしますよね。それは僕たちが 相手の表情だけではなく、呼吸の仕方や声のトーンから感情を読み解きながらコミュニケーションを取っているからです。 まさに、息は自分の心。心は息に表れますし、逆に息をコントロールすることで心をコントロールすることもできるのです。

以前イタリア人の先生から歌のレッスンを受けた時、こんなお言葉をいただきました。

「笑う時、泣く時、人間は横隔膜から動き出すだろう。感情が動くと横隔膜が震え出すんだ。つまり、横隔膜っていうのは[感情を司る]器官なんだ。だから横隔膜を大きく張って歌うオペラは爆発的な感情を表現できるし、感情を吐き出せた時は気持ちがいいだろう。横隔膜をいっぱい使って歌うのは快楽を伴うものなのだよ。さぁ歌おう!」

声楽は呼吸器官を使ったスポーツとも言われています。横隔膜を最大限に活用させて息をコントロールし、体内気圧を高めて共鳴腔を広げて音を増幅させます。

そう言われてみればイタリア人は普段の会話でもよく肩をすくめたり、腕を開いたり閉じたり、表情豊かに体も顔もよく動かしますが、感情表現がとにかく大きいですよね。そうやって身体を使って、横隔膜も動かしながら、情熱的な想いや考えを伝えたりしているのかもしれません。
日本人は感情表現が乏しいと言われます。それは心の表情が身体に表れないからかもしれません。ちょっとイタリア人風に身体を動かしながらコミュニケーションを取るようにすると、自分の気持ちがより明瞭に相手に伝わるようになるかもしれませんね。
ぜひ試してみてください。コツは手先を動かすよりも「横隔膜(肋骨)」を動かすよう呼吸することです。

呼吸エクササイズの方法

※立って行う場合、左右の足の幅は肩幅よりやや狭く。座って行う場合は、椅子でもあぐらでも正座でも大丈夫です。

まず胸の前で両手の手のひらを合わせ、合掌する形にします。そのまま左右の手を互いに押し合うように力を入れましょう。
胸の中心辺りに少しだけクッと力が入る感じになり、背中が開くような感覚があればOKです。

その姿勢のまま、鼻から深く息を吸います。
鼻の奥の後ろの壁に吸った息が当たるイメージで吸うと深く吸えます。その息がうなじを通って肺の方まで送り込まれるイメージです。背中が開き、胸郭全体が引きあげられていきます。

息を深く吸ったら(4秒間)、そのまま息を止め(4秒間)、ゆっくりと息を吐きながら(8秒間)体を元の状態に戻していきます。

[4秒吸って、4秒とめて、8秒吐く]×5セット繰り返すと効果的です。

いかがですか。深い呼吸に合わせて胸や肩の骨も動いているのを感じられましたでしょうか。
実は呼吸をすると背骨や骨盤も動いていて、それに伴って全身の筋肉も伸縮を繰り返しています。血行も良くなり、骨が動かしやすくなっていきますから、身体もリラックスできることでしょう。

さて、ここまで取り留めもなくお話させていただきましたが、今もし気分が滅入っていたり、身体が疲れていたりして、息がつまって感じる方は、ぜひ大きく深く呼吸をし、身体も動かしてみて、自分の感情を呼び起こしましょう。ご家庭で映画を見て思いっきり泣いたり笑ったりするのも良いでしょう。大きな声で歌ってみるのも良いと思います。

そうやって横隔膜を使って息を動かすことで自分の心も身体もリフレッシュ!日常が今よりほんのちょっぴり彩り豊かになるかもしれません。ぜひ素敵な横隔膜ライフを送ってみてください。
呼吸と、横隔膜と、心のお話でした。

古澤利人 <この記事の監修>
声楽家・オペラ歌手
古澤利人(ふるさわりひと)

オペラ歌手として数多くのオペラに出演。文化庁人材育成オペラ「魔笛」パパゲーノ役、東宝ミュージカル「レミゼラブル」司教役、東京ディズニーシー15周年"The Year of WISH" in Concertなどに出演。その他、ボイストレーナー、音楽指導者としても活動する。

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